チベット回想録(死と再生)

比翼連理の物語:愛別離苦の悲しみを乗り越える永遠の絆

チベット法話、比翼連理

昔、ある村に気立ての良い女性と、働き者の男性が住んでいました。

幼い頃からいつも一緒。

やがて、二人は結ばれて夫婦になりました。

ある日のこと、女性が重い病気にかかってしまいました。

アムチ(医者)の話になると、ある特別な薬草だけが唯一、病気を治す方法だと告げられました。

それは、断崖の壁面にだけ自生するある植物の花だと知りました。

男性は、意を決してそれを探しにでかけました。

季節は何度もめぐり、過ぎ去りました。

しかし、男性は帰ってきませんでした。

その後、女性は一人この世を後にしました。

死後、中有(パルド=49日間)に、薬師如来が女性の前に姿をあらわし、

「あなたの夫であった男性は、崖から足をすべらせ命を落としてしまいました。最後まであなたの幸せを願いながら、手には花を握りしめながら、息を引き取りました」、そう教えてくれました。

それを聞いた女性は、目に大粒の涙を浮かべて、薬師如来にこうお願いしました。

「来世、もし生まれ変われたら、病気で苦しむすべての人々を支える生き方がしたいです。夫と力を合わせて」。

女性は月光菩薩(がっこうぼさつ)に、男性は日光菩薩(にっこうぼさつ)に、薬師如来の脇侍として生まれ変わりました。

病気で苦しむすべての人々のそばに、これまでも、これからも、いつも一緒におられます。

合掌

これは、昔チベット巡礼の時に聞いたお話です。

その時、「比翼連理(ひよくれんり)」という言葉が浮かびました。

比翼連理(ひよくれんり)とは、とても仲のよい夫婦や恋人のたとえです。

愛別離苦(あいべつりく)の別れはとても悲しいですが、またいつか深い縁で…、

きっと巡り合う日がやってくる、そう信じています。

合掌 天宮光啓

(参考)

中有とは、衆生が死んでから次の縁を得るまでの間。四有の一つ。

アムチとは、お医者さんのことをいいます。かつて多くのアムチは僧が務めていました。

チベットでは僧医たちによる「仏教医学」が体系化され、チベット医学の発展に役立ったとのことです。

なお、瞑想中が人々の”病気を癒やす”という神秘的医学として着目されていた点は実に興味深いです。

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@kokei_amamiya
これまでチベットやインド、ネパールなど世界中の仏教・密教聖地を巡礼する旅をしてきました。そうして得た貴重な体験や経験をいかした様々な活動をおこなっています。希望の明るい未来を目指して共に前進!