
十二合掌印の一つに「金剛合掌」があります。
両手の指を交互に交差させるムドラー(印相:いんぞう)です。
印契(いんげい)、密印(みついん)などと呼ばれています。
古代から伝わる手のポーズのことで、ヨーガや仏教、ヒンドゥー教などの宗教や文化、芸術、精神世界で広く用いられ、やがて仏教や密教にも取り入れられました。
今回は、「金剛合掌」についてお話ししたいと思います。
さて、ムドラーは単なる手のジェスチャーやポーズだけでなく、心身の調和をもたらし、内面のエネルギーを高める効果があるとされています。
人生の中で困難に直面した際に、心の平静を保ち、冷静に物事を判断するためにもちいます。
ムドラーには大変深い意味、「教え」が込められています。
それは、真如の「理」と、それを悟る「智慧」です。
また、仏界(右手)と衆生界(左手)を表します。
つまり、「金剛合掌」は、私たちが常に仏様(仏・菩薩・天部・明王)と一緒に存在しているという証(あかし)です。
人生にはさまざまな試練や困難が待ち受けています。
仕事のストレス、人間関係のトラブル、健康問題、経済的な苦境など、誰もがさまざまな難題や困難に直面することでしょう。
そんなときに、先ほどの「金剛合掌」の教え(理と智、仏界と衆生界)を思い出してみてください。
左右の指を交互に深く結ぶ「金剛合掌」は、まさしく仏界と衆生界が一つである象徴です。
それは、いつも私たちが仏様と一緒にいるという深い意味が込められています。
したがって、そんな大切な手で、人を殴ったり、物を盗んだり、犯罪や悪事に手を染めてしまっては悲しすぎます。
私たちは、困難な状況に陥ったとき、不公平を感じたり、不当な扱いを受ければ、誰もが怒りや憎しみ、不安や悲しみなどのネガティブな感情が湧き上がってきます。
しかし、だからといってこれらの感情に流されず、冷静な心を保ち、対処することが大切ではないでしょうか。
そこで、平素から「金剛合掌」を結び、瞑想することをお勧めします。
今というこの瞬間に意識を集中させ、感情に振り回されず、客観的に、かつ冷静に状況を見つめ、物事を受け入れる力が養われます。
そして、困難な状況を否定せず、その中で学ぶべき教訓や、試練に打ち克ち、失敗や苦しみを経て成長し、より強い自分になれます。
こうした教えを実践することは容易ではありませんが、その成果は絶大です。
困難な状況に直面したときにも、心の平静を保ち、冷静に対処することで、人生の質が向上し、自己成長の機会が増えてきます。
より充実した皆さんのかけがえのない人生を豊かに送るための第一歩を踏み出してみてください。
なお、ムドラーに関しては、越法罪(越三昧耶)があります。
ゆえに、詳述できないこともありますが、これからも皆さんがいつも仏様と共にあることをお伝えできればと思います。
合掌 天宮光啓
印相(いんぞう)とは
ムドラーの訳で〈印契:いんげい〉〈密印:みついん〉ともいい、略して(印:いん)という。また、音写して〈母陀羅:もだら〉ともいう。
密教では行者が本尊に印相をむすぶことによりその尊核との身体的同一を達成する身密行:しんみつぎょうとして重視された。
真言とともに用いるときは〈印言:いんごん〉という。印の結び方には〈十八印〉(十二合掌)(六種拳)などがあるが、秘密性を保つために、左右の両手(定慧:じょうえ)、各指(地・水・火・風・空の五大)に特有の名称をあてることもある。→三密。
「印相」. 中村元.『仏教辞典苑』第 二 版. 岩波書店,2002,p.58.